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大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)56号 判決

高石市東羽衣三丁目五番八号

原告

鳥居良子

右訴訟代理人弁護士

密門光昭

泉大津市二田町二丁目一五―二七

被告

泉大津税務署長

中村貞雄

右指定代理人

高須要子

谷口栄祐

熊本義城

志水哲雄

岡本雅男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告

1  被告が昭和五三年一一月九日原告に対してなした原告の昭和五二年分の所得税についての更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二原告の請求の原因

一  原告は、昭和五二年六月一四日東洋建設株式会社に対し別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地という)を代金一億一、七五〇万円で売却した。

二  本件土地の譲渡は、租税特別措置法(以下、法という)三七条に定める買換資産の特例に該当し、譲渡がなかったものとみなされることは次のとおりである。

1  原告は、古くから不動産貸付業を営み、また昭和四五年から昭和五二年までは土地分譲業を営んでいた者であるが、本件土地を売却した当時これを原告の右事業の用に供していた。即ち、鳥居株式会社(原告の夫鳥居祐一が代表取締役、原告が取締役の同族会社)は、昭和五〇年一二月原告所有の土地(高石市東羽衣三丁目五四番一)の上に別紙物件目録(二)記載の建物(以下、一号ビルという)を建設したが、一号ビルの建設計画と同時に本件土地の上に二号ビルの建設を計画していたところ、これら総合計画に基づき、原告は、本件土地について宅地造成並びに境界、排水路の整備を行ったうえ、二号ビル建築着工に至るまでの間本件土地を一号ビルの建築資材の置場として使用し、また二号ビル建設用地として保有して事業の用に供していた。

2  仮に、右1の主張が容れられないとしても、原告は、本件土地売却当時これを事業に準ずるもの(租税特別措置法施行令二五条二項)の用に供していた。即ち、原告は、鳥居株式会社に本件土地の整備等に要した多額の金額を代払してもらっており、また同会社より月額二万円の賃料を得ていたものであり、本件土地上に二号ビルが建設された後に、鳥居株式会社との間で改めて本件土地の賃料、保証金並びに右立替払関係等を含む具体的取決め-正式な賃貸借契約-を締結する予定であったのであるから、原告において、相当の対価を得て鳥居株式会社に対し本件土地を継続的に貸付けていたというべきである。

3  その後二号ビル建設計画がとりやめとなったので、原告は、昭和五二年一二月二三日鳥居株式会社より前記売却代金に自己保有資金を加えた一億二、〇〇〇万円にて別紙物件目録(三)記載の建物(以下、本件建物という)を購入し、その直後からこれを鳥居株式会社に貸付けて、事業の用に供している。

三  そこで、原告は、昭和五二年分の所得税について、本件土地の譲渡に係る所得を〇円とする別表(一)の申告欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、原告が本件土地の譲渡に係る所得を〇円としたことを否認し、昭和五三年一一月九日原告に対し同表(一)の更正額等欄記載のとおりの更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分(以下、合わせて本件処分という)をした。

四  よって、本件処分は、原告が本件土地を事業の用に供していたという実体を無視してなされた違法な処分であるから、その取消を求める。

五  なお、被告主張の別表(二)の譲渡費用及び措置法三一条の二、三関係の控除額については争わない。

第三被告の答弁及び主張

一  請求の原因一記載の事実は認める。

二  請求の原因二記載のうち、原告が不動産貸付業を営んでいること、鳥居株式会社の代表者が原告の夫鳥居祐一であり、原告がその取締役であることは認めるが、その余の事実は争う。

1  本件土地売却当時、原告自らがこれを事業あるいは事業に準ずるものの用に供していた事実はなかった。即ち、当時本件土地は、田に盛土をした雑地で、二尺余りの雑草が繁った空地であった。その南側の一部に、隣地との境界にするために、固有水路から約一尺離れて二段積みのブロックがあったが、水路の護岸工事はなかった。本件土地は三筆に分筆されたが、その内の一筆である二四番の三の市道に面した一隅に解体物が置いてあった。以上からすれば、本件土地は、放置された状況にあったのであり、農地法四条一項五号の規定の届けすらなされていなかった。

2  本件土地売却当時、原告が鳥居株式会社に対し本件土地を賃貸し、事業の用に供していたという事実もない。即ち、原告は昭和四八年四月以降本件土地を同会社に賃貸する予定であったようであるが期間、賃料等について合意があったとみられないし、通常借地権設定に伴い授受される敷金・権利金等の交付もなく、賃貸借契約書の作成もなされていないのであって、両者間に賃貸借契約があったとは到底認めることができない。

仮に、賃貸借契約締結の事実が存するとしても、原告において鳥居株式会社より得ている賃料と目すべきものは月額二万円であって、相当の対価を得ていたということはできないから、本件土地を租税特別措置法施行令二五条二項にいう事業に準ずるものの用に供していたということもできない。

3  また、原告が昭和五二年一二月二三日本件建物を取得したこともない。

仮に、建物取得の事実が存するとしても、原告は、鳥居株式会社に対する金銭債権の回収にかえて本件建物を取得したに過ぎない。

三  請求の原因三記載の事実は認める。

四  本件係争年分の原告の分離長期譲渡所得金額の算出根拠は別表(二)記載のとおりである。

五  そうすると、本件処分には何ら違法な点はない。

第四証拠関係

一  原告

1  甲第一号証の一ないし五、第二号証、第三号証の一ないし一八、第四号証の一ないし八、第五号証の一、二、第六号証の一ないし四、第七号証の一ないし五、第八号証の一、二、第九号証の一ないし五、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし七、第一六号証、第一七号証の一ないし九、第一八号証の一ないし九、第一九号証の一、二、第二〇号証の一ないし一〇、第二一号証の一ないし四、第二二号証の一、二、第二三号証の一ないし五、第二四号証の一ないし三、第二五号証、第二六号証の一ないし五、第二七号証の一、二、第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇号証の一ないし五、第三一ないし第三四号証の各一、二、第三五号証、第三六号証の一ないし四、第三七ないし第三九号証。

2  証人鳥居祐一。

3  乙号各証の成立を認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一ないし四、第四、第五号証の各一、二、第六ないし第一五号証、第一六号証の一ないし四、第一七、第一八号証。

2  甲第一号証の一ないし五、第三号証の一ないし一八、第四号証の一、三、八、第六号証の一、二、第七号証の一ないし五、第九号証の三、四、第一〇号証の一ないし三、第一二、第一三号証、第一四号証の一、第一八号証の二ないし五、第一九号証の一、第二七号証の一、二、第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇号証の一ないし三、第三一ないし第三四号証の各一、二、第三五号証、第三六号証の一ないし四、第三七号証の成立は認める。甲第八号証の一、二の各官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。その余の甲号証の成立は知らない。

理由

一  請求の原因一記載の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件土地の譲渡が法三七条に定める買換資産の特例に該当するか否かについて判断する。

成立に争いがない甲第一号証の一ないし五、第三号証の一ないし一八、第四号証の一、三、第六号証の一、二、第七号証の一ないし五、第九号証の三、四、第一〇号証の一ないし三、第一二号証、乙第一号証、第一五号証、第一八号証、証人鳥居祐一の証言により真正に成立したと認められる甲第二号証、第九号証の一、二、第一六号証、第二三号証の一、第二四号証の一ないし三及び証人鳥居祐一の証言の一部並びに弁論の全趣旨によれば、

(1)  原告は、大正一三年生まれの女性であるが、昭和九年頃より昭和二三年にかけて大阪市内や高石市内の宅地、田畑、山林を取得し、戦前より右宅地上に建物を所有してこれを賃貸し、本件土地を譲渡した当時も建物の貸付を業としていた。

(2)  本件土地は原告が昭和一六年一月二五日に売買により取得し、昭和三四、五年頃まで原告と夫祐一が稲作をし、その後植樹栽培に切替えたが、手入ができず荒地となり、昭和四〇年頃から宅地化する目的で周囲の里道、水路、市道との境界明示作業が重ねられた。

(3)  原告は、昭和四六年一一月二七日船井工務店こと船井君雄に対し、所有の高石市東羽衣五丁目一〇〇番の土地約六〇〇坪を代金九、〇〇〇万円で売却し、船井工務店は、右土地上に住宅を建築してこれを分譲する事業に着手したが、その経営に行き詰まり、右代金の支払をすることができなくなった。そこで、原告の夫鳥居祐一は、右建売分譲の事業を引き継ぐために昭和四七年七月鳥居株式会社(同族会社)を設立する傍ら、同年一一月四日船井工務店から右土地に関する権利義務を承継し、鳥居株式会社の責任において右事業を遂行した。鳥居株式会社は、その建築工事を新に定平工務店こと定平義明に請負わせたが、その際本件土地を資材置場として使用させたことがある。

(4)  鳥居株式会社は、高石市東羽衣三丁目五四番地一の土地に一号ビルを、本件土地に二号ビルの建設を計画し、昭和四九年一二月大都工業株式会社に対し一号ビルの建築工事を請負わせ、一号ビルは昭和五〇年中に完成したが、二号ビルの建設計画は資金面や景気の配慮から昭和五二年頃断念するに至った。

なお、一号ビル建設期間中鳥居株式会社が大都工業株式会社に本件土地を一号ビル建設予定地に建っていた建物廃材等の置場として利用させたことがある。

(5)  本件土地は、原告が東洋建設株式会社に売却した当時、その一部に解体物が置かれていたほか、その余は高さ二尺余りの草が生い繁っていて、放置された空地の状態であった。

(6)  原告は、鳥居株式会社が前記のとおり第三者に本件土地の使用をさせるのを許諾していたが、原告と鳥居株式会社との間で本件土地の賃貸借契約書が交されたことはなく、前記(3)及び(4)の工事の際資材置場等として使用された期間中も、鳥居株式会社から原告に対し現実に賃料の支払がされたことはない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人鳥居祐一の証言部分は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告は本件土地を将来鳥居株式会社の二号ビル建設計画事業の用に供するために保有し、たまたま同会社の建売事業や一号ビル建設に際し、資材等の置場として建設業者が一時使用することを許諾してきたことが認められるが、しかし、より以上に原告において、本件土地を原告固有の事業の用に供していたと認めることはできず、また相当な対価を得て継続的に本件土地を貸付けていたと認めることもできないから、本件土地を事業またはそれに準ずるものの用に供していたといえないことは明らかである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件土地の譲渡について法三七条を適用する余地はない。

なお、原告は本件土地を鳥居株式会社に貸付け、その対価として、〈1〉鳥居株式会社に本件土地の整備等に要した多額の金員を代払してもらった。〈2〉鳥居株式会社から月額二万円の賃料を受け取っていたと主張し、右〈1〉の主張に副うかのような証拠として、甲第二〇号証の一ないし一〇及び証人鳥居祐一の証言があるが、鳥居株式会社が本件土地上に二号ビルの建設を計画していたこと及び主張の整備等に要した費用が鳥居株式会社の経理では建設仮勘定として処理されたままであることを考慮すると、右整備等に要した費用が本件土地の賃料に見合うものとして支出されたものでないことは明らかであり、また右〈2〉の主張に副うかのような証拠として、乙第二及び第三号証の各一、二、第九、第一〇号証並びに証人鳥居祐一の証言があり、右証拠によれば、本件土地に関し、原告は鳥居株式会社から昭和四九年一二月以降月額二万円の賃料を受領したとし、同会社は原告に対し昭和五一年四月以降右賃料を支払った旨それぞれ確定申告書に記載していることが認められるところ、仮に右賃料の支払が現実になされたとしても、当時の本件土地の相続税評価額三、四二八万〇、四〇〇円(本件土地の譲渡価額一億一、七五〇万円、乙第一三、第一四号証並びに弁論の全趣旨により認める。)と対比して、右月額二万円の金額が本件土地使用の対価性を有するとみるには余りにも僅少の額であること、鳥居株式会社が昭和五〇年八月一八日本件土地を大阪府中小企業信用保証協会に対する債務の担保に供し(甲第一二号証)、同会社の昭和五一年四月以降の事業年度分の確定申告書には本件土地の用途として土地担保と記載されていること(乙第九、第一〇号証)に徴すると、右月額二万円の金員は、賃料と称してはいるが、原告に対する担保提供の対価とも考える余地があり、いずれにしても相当額の賃料を支払っていたと認めることはできない。したがって、原告の右各主張を容れることはできない。

三  請求の原因三記載の事実及び本件土地譲渡の費用が別表(二)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、概算取得費控除及び特別控除額が同表記載のとおりであることは法の適用上明らかである。

四  そうすると、本件土地の譲渡に法三七条の適用がないものとしてなされた被告の本件処分には何ら違法な点はない(その計算は別表(一)の「更正額等」欄記載のとおりである。)。したがって、その取消を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 井深泰夫 裁判官 西野佳樹)

物件目録

(一) 堺市鳳西野一丁目二四番の一

田(現況宅地) 一、〇六〇平方メートル

(二) 高石市東羽衣三丁目五四番地一地上

家屋番号 五四番一の二

鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根五階建店舗共同住宅

一階 四一二・〇〇平方メートル

二階 四四五・七七平方メートル

床面積 三階 四〇一・六五平方メートル

四階 二四〇・四一平方メートル

五階 二四〇・四一平方メートル

(三) 右建物のうち四階、五階部分

以上

別表(一)

〈省略〉

別表(二) 分離長期譲渡所得の算出根拠

〈省略〉

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